長いんで前中後編で

リード1点じゃ怖い。相手はあの超重量ホークス打線。1本出ただけで、苦労してつかみとったリードが水泡と帰す。マリーンズ投手はセットアッパー薮田。荒金、バティスタを打ち取り、さあ、どんなに不調でもやっぱり怖い松中大魔王の登場。一発出れば同点。被打率は低いものの、長打を打たれて失点する傾向の高い薮田なだけに、、、と祈る。とにかく祈る。松中は最後フルカウントから四球、続くズレータにも四球を与える。そして迎える打者はカブレラプレーオフで絶好調の男。そのカブレラの打球は勢いよくセンターへ!万事休すかと思われたその打球を、センターサブローが好捕球。打撃で活躍できなければ、こういうところで活躍すればいい。ナイス、サブロー!
9回表のマリーンズの攻撃は、西岡、初芝、福浦と簡単に終わった。初芝の打球は、速球派馬原からかなりのいい打球が飛んだけれどアウト。うーん、まだ現役続けられるよなー。
そして迎えた9回裏。ピッチャー薮田に代わりまして、小林雅英、背番号30。4戦連続無失点セーブで、マリーンズファンすべての希望を集めて4点差でマウンドに上がった、あの第三戦の炎上劇があった。レギュラーシーズン最後のホークス戦で、不甲斐ないピッチングでノックアウトされる清水直行は、プレーオフ第二ステージ2戦目で汚名を返上した。ボビーは最終戦1点差9回裏のマウンドを小林雅英に託した。俺らはそれを信じるだけ。ホークスファンの白と黄色で埋まったヤフードームのレフトスタンドに、一部だけ黒く染まった箇所がある、それがビジター用のレプリカユニに身を包んだマリーンズファンの居場所だった。敵地福岡で、人数が圧倒的に少ない中で声援を送る、優勝を信じて疑わないマリーンズファンたち、そしてパブリックビューイングが行われている雨のマリンスタジアムにも大勢のファンが優勝を信じ駆けつけていた。
「コバヤシ!コバヤシ!」
満場の声援かと思うほどの大きな声援を受けて、幕張の防波堤はマウンドへ。先頭打者の大村に、追い込んでからの四球を許してしまう。
「でも信じる、I BELIEVE、頼む、小林雅英!」
鳥越にバントを決められるが「アウトひとつ儲け」という気持ちしかなかった。とりあえず1アウト、小林雅英にはそれが重要だ。走者が2塁とかにいたほうがいいような気がした。
怖い左打者の柴原が倒れ、そして迎える絶好調の川粼。小林雅英の投げる2球目、川粼の打球は勢いなくセンター方向へ。井上純がキッチリと捕球しゲームセット、ついにリーグ優勝の念願が叶った瞬間だった。
正直、ボールがグラブにおさまった瞬間と、選手が飛び出してくるあたりまではなんともなかった。が、選手たちがマウンドに集まり出したあたりから涙が止まらなかった。クソニワカの俺を、ここまで楽しませてくれた、選手たちの念願が叶った、初芝が、堀が、黒木が、清水直行が、小林雅英が夢見ていたリーグ優勝という夢が。
「勝った!小林!小林!ああ、堀が、初芝が…、ボビー飛んでるよ、ボビーが胴上げ…」