雨のダービーといえば、思い出すことがある。そんなセンチメンタルな晩春の夕暮れに向かって……2get!


結論からいえば、1番人気のアンライバルドが吹っ飛んだために馬券は外れた。しかし、たかだか福沢先生の1人や2人、今の気分を考えると寸分たりとも惜しくはない。

第一幕。ダービー予想とマークカード

弥生賞を勝った馬って皐月賞が案外でもダービーで好勝負するよねっていう経験則みたいなものを、競馬歴が15年とか20年くらいの人って持っていることが多いんじゃないかと思う。弥生賞ってのは毎年少頭数だったりスローペースな展開が多く、同距離同コースと言えどペースが速くなりがちな皐月賞には直結しない、むしろ千八で頭数が多くハイペースで流れがちのスプリングステークスのほうが、皐月賞には直結する。そしてダービーはペースが落ち着きがちで、皐月賞を制した馬よりも弥生賞で強い競馬をした馬や、共同通信杯だとかラジオたんぱ杯を圧勝した馬のほうが、いい勝負をしそうだししている気がする。実際にデータをとって傾向を掴んでいるわけではないので、なんとも妄想交じりとしかいえないんだけれども、とにかく自分はそういうイメージを持っている。
だから、皐月賞であれだけ無様な着順に沈んでしまったロジユニヴァースを、ダービーでの「アンライバルド様のヒモ」に指名してやったのだ。本命?もちろん皐月賞であれだけ強い競馬をして、ディープインパクトより強い!という評判のアンライバルド様だよ?
まあ、1回ハイペースに飲まれて轟沈したくらいで人気落としすぎだろってのと、他の人気馬見てもピンとくるものがなかったってのがロジユニヴァースにこだわった理由でもあるんだけれど。
というわけで、そこまで結論が出ていれば競馬新聞なんぞ買わなくても問題ないので、午後2時前後に京王線準特急で本を読みながらうとうとしつつ府中に向かった。とりあえず馬体重を確認して、ロジユニ+16kg、絶好!と独りモニターに向かってつぶやき、マークカードで本日の「競馬税」のお支払い。ATMに諭吉さんを差し込むと、納税証明だか領収書だかよくわからない紙が印刷されて出てくるので、何の気なしに胸ポケットにしまってヤクザなマシーンを後にする。あの機械の前に立っていいのは、1人20秒まで。20秒で舌打ち、30秒でイラつくような足踏みの音、40秒で「おせーよ!」という怒号、50秒で「もっかい並びなおせよ!」という命令が飛んできます。ちなみに、本日の俺の記録は10秒弱。1レースの投資金額はキリのいい数字、投入するマークカードはまとめていっぺんに入れる。日本一エコな競馬ファンを自称したいくらいの優等生でしょう?

第二幕。きね打ち麺と七味唐辛子


勝ち馬投票を済ませたら、1コーナー付近のファストフードプラザで、恒例の「きね打ち麺」を食べながらの準メイン観戦。酔っ払った爺さん4人に、なぜか囲まれながら。
そんな特殊な状況下で東京9R、本日の準メインの芝コース1800m、むらさき賞を見ていて凍りついた。外伸びないし、なんだあのクソタイム、準オープンの芝千八のタイムじゃない、ダートでやってるんじゃねえの?あと外がまったく伸びてない、内の馬が逃げ切ったからそう言ってるんじゃなくて、文字通り「伸びない」。アンライバルドの脂肪フラグです。
そんなトラックバイアスやら馬場状態やらを見てか見ないでか、周りのジジイどもは気にせず「アンライバルドはディーインパクトより強いって記者が書いてた」だの「リーチクラウン?武の馬はダメだよ」だの、よくわからない会話を楽しんでいた。「お前普段は絶対競馬のケの字も意識せずに生きてるよな?」ってオネーチャンばっかり目立つのがダービーデーの特徴なんだけれども、シンザンが三冠達成した頃から「西の秘密兵器」とか言ってダービーを見てたようなジジイも競馬場にきてバカトークしてんのな、と思うと心が暖まった。墓場に金は持ってけないだの、金はあっても寿命がないだの、きね打ち麺食べてる間にそんな話を延々と聞かされた。しまいには、松田博資みたいな最高齢っぽいジイサンが「俺ガンなんだよ、食道ガン」などと告白しやがる。麻生太郎を栄養失調にして貧乏くさくしたようなジイサンが「そんな元気でガンなわけないだろ」と、暗い気持ちになる周りを盛り上げる、ハートフルストーリーも垣間見えた。悪くない歳の取り方だ。
さて、そんな4人組の観察も面白かったんだけれども、冷静に振り返る自分のダービーも観察対象としてはなかなかだったと思う。4角回ってから、ずっと「ノリヒロ!ノリヒロ!」と叫んでいた。直線前半で横山&ロジユニヴァースさえ抜け出せば、アンライバルドが突っ込んでこないわけがない。だが、いくら「ノリヒロ!」と叫んだところで、イワタは泥を跳ねながら馬群に飲まれたままで、追い上げてくる気配すらない。懸命に「ノリヒロ!」と声援を送っても、イワタの姿を鮮明にとらえることはできなかった。サンデーレーシングの黒い勝負服が、泥にまぎれて見えづらかったのかもしれない。結局、わけもわからず横山典弘の名前を呼び続けた俺の第76回東京優駿は、最後に武豊の名前を叫んで幕を閉じた。また、悪い癖だ。
「お、俺は外れてなんてないんだからね!」

終幕

馬券は税金である。よく「白熱したレースの観戦料」という揶揄を目にすることがあるが、個人的にはそれは間違いだと思っている。「観戦料」であれば、支払った者にお金が返ってくるのはおかしい。しかし税金であるならば、胴元が一旦回収した後に必要経費をさっぴいて、再分配するというのは間違っていない。ただ、その再分配の仕組みが、よくわからない謎なものに包まれているだけだ。
これまで3度の2着、ライアンの呪いなのではと語られた横山典弘は、ついにダービージョッキーとなった。ウイニングランではファンに何度も頭を下げ、帽子に手をかけ、人差し指を突き立ててみたり、両手でガッツポーズをしたり。喜びを爆発させる彼の姿を見ていると、雨という天候が憎らしくなった。その目に浮かぶものの正体が、確認できないではないか。そうか、騎手というのは自分が泣くために馬に乗っているのではなく、ファンを泣かせるためにステッキに力を込めているのだと気づいた時には、フジビュースタンドの屋根のないところに俺は立っていた。別に、馬券が外れたから、ではない。はず。