秋華賞、最後の最後でブエナビスタが伸びなかったのは安藤勝己なりの遠慮があったのかもしれない。

2009年秋華賞、最後の直線でレッドディザイアが抜け出したその外から、ブエナビスタが強襲する。しかし、その脚色にはかつて見た鋭さが見られなかった。最後の一完歩まで懸命に脚を伸ばしたブエナビスタだが、ハナ差届かずの写真判定レッドディザイアに軍配が上がった。
スタートしてすぐに後ろに下げた時点で、ブエナビスタの運命は決まっていたのかもしれない。2枠3番という内からのスタート、1〜2コーナーで完全にラチ沿いに押し込まれ、前はレッドディザイア、後ろはブロードストリートに塞がれた状態。これを実況は「レッドディザイアを完全にマーク」と表現していたが、意識してマークしていたというよりは「レッドディザイアが抜け出る瞬間、その一瞬だけなら道ができるはず」という、安藤勝己の最後の希望だったんだと思う。目標にしたり負かしにいこうという思惑ではなかったのではないか。
残り600。3〜4角でも前はふさがったままだった。外に出そうにも出せない、出せたとしてもオークスならそれで間に合ったが、舞台は京都競馬場の内回りコース。懸命にレッドディザイアの後ろを取り続ける。絶対にレッドディザイアの直後を取られてはいけない……。4角でブロードストリート藤田伸二立ち上がり、外に振られたのを安藤勝己は確認しているはず。あのアクションの派手さを見れば、それなりの覚悟はしていただろう。
それでも、直線でもまだレッドディザイアのコースを追い続ける。再度内から攻めるブロードストリートの進路を、レッドディザイアとの間に割って入ろうとするラインドリームの進路、何度も他馬のコースをカットしてレッドディザイアの後を追い、残り200。ついに開けた牝馬三冠への進路。
ここで安藤勝己が何を思ったかは知らない。ただ先頭を目指して、ブエナビスタの能力を信じて懸命に追っていたんだとは思う。だけれども届かなかった。いや、安藤勝己にとっても差していないほうがよかったはずだ。牝馬三冠達成!のはずなのに、騎手が渋い顔で審議を見守るのか?*1祝賀ムードの中、降着してやっぱりダメでしたって時に、どんな顔すればいいのか。
何はともあれ、歴史的幻の牝馬三冠を阻止した側のレッドディザイア四位洋文は、なんかもう裏ですべて糸を引いてるんじゃないかってほど出来すぎた「完封劇」だった。正義を為すために悪を為さねばならないという矛盾をブエナビスタに突きつけ、その葛藤を抱えたまま追いすがるブエナビスタを封じ込め、そしてローズSで後塵を拝したブロードストリートはその矛盾を抱えたヒロインの犠牲となった。
そんな2分間を妄想してみた。

3−5の馬連

京都の内回りの牝馬のレースで、しかもフルゲートなのにブチ込んだ勇者様がた、乙であります!
レッドディザイアが抜け出して、外からブエナビスタが突っ込んできて、完全に獲ったと思ったけれど審議の青いランプ。*2トロールビデオを確認してみるとブエナビスタが審議対象っぽい……。ここから20分間は生きた心地しなかっただろうなぁ。着順掲示板からすべての馬番が消えるあの瞬間。「お待たせしました」と場内放送が流れるあの瞬間。「3番、ブエナビスタ号は」というアナウンスが流れると場内からドッと声が上がり、どよめき、怒号が飛ぶ。競馬始めたてでこれを味わったら絶対にトラウマになるね、二度と競馬なんてやるもんかと思うね。
進路妨害で一番人気が降着だなんてレースに泥を塗るような結果かもしれないけれど、こういう騒ぎの中でも、ブエナビスタが3着になったことによって儲けてる人もいるわけで、そういう人が得意げに「まあ、糞レースだったかもしれないけれどw」とかドヤ顔で言ってるのを想像すると、非常に良いレースだったんじゃないかとも思う。鉄火場って、博打って本当に面白い。

*1:実際、検量室でパトロールVTRを見てた安藤勝己は物凄く暗い表情だった

*2:京都競馬場にはランプないけど