オルフェーヴル「謎の敗戦」についてと、その他第145回天皇賞雑感

まんまと逃げ切りを決めたビートブラックは獲らえられなかったかもしれないが、11着に大敗するのは体調が悪かったり馬場が悪かったり、馬本来の能力を発揮できていなかったから、調教師も騎手も「今日はいつも通りじゃなかった」というコメント出してるし。そういった「末脚不発」「謎の敗戦」という言説がまかり通っているわけですが、個人的にはそのあたりのコメントや記事は鵜呑みにできないなーという感想を持っている。
まず、オルフェーヴルがどうして11着という大きな負け方をしたのか。戦前にリスクとして考えられていた阪神大賞典のような逸走をしたわけでもないし、引っかかってスタミナを消耗したわけでもないし、不利があって脚を余してしまったわけでもないし。じゃあ、どうしていつものような豪快な末脚が鳴りを潜めてしまったのか。
以下、いつも個々の馬のラップタイムを映像から解析して作成しているMahmoudさんのデータが正しいという前提に基づいて考察・意見をします。そのデータはJRAが発表する公式記録とは異なるものであるので、あらかじめそのことをご理解ください。

まずは、キーとなる各馬のラップが解析されているので、それをグラフにしてみる。

縦軸が1Fごとのラップタイム、横軸が全12Fの時間の経過を表している。
ビートブラックが平均的なラップを刻んでいるのに対し、オルフェーヴルウインバリアシオンは後半に行くにつれて急激に加速していっていることがわかる。
確かに、毎度下してるウインバリアシオンを差し切れないなんて何か不可解な気もする。とはいえ、オルフェーヴルがスパートする13F〜14F、800〜400の地点ではウインバリアシオンより早いラップタイムで差を詰めており、ここでは差し切れる勢いだったのかもしれない。だが、すぐにオルフェーヴルのラップタイムはウインバリアシオンより遅いものとなり、脚が上がってそこからは他馬と同じ勢いとなり雪崩れ込むように入線、という事態となってしまった。どうしてこうなってしまったのか。菊花賞では常に前を射程圏に入れながらの競馬で、無理なく自分のペースで折り合いもピッタリ、最後は自ら前を潰しに行って完勝。ところが、天皇賞では幾分力んで走っていたようにも見えるし、騎手も手綱をややガッシリで引き気味に持ち、道中ではコースを邪魔されない外へ出す気配もなし。やはり外に出しての逸走のリスクが騎手の頭の中にあり、それを排除するために菊花賞阪神大賞典と違うややインに構えての後方待機策を選んだんだろうか。恐らくは、大きく開きすぎた前との差に危機感を持った騎手がそれを何とかするために先の2レースとは違う急激な加速をし、コース取りもクレスコグランドにぶつけて無理矢理外に出すわ、直線入口では誰も通っていないような大外に出すわでてんやわんやの結果、直線ではバタバタになって、報じられてるようなコメントになってしまったのではないか。*1

2周目向正面の坂の上りで動かして行ったのですが、いつもの反応がなくて、坂の下りを利用して加速させようと思ったのですが、いつもの伸びはありませんでした。直線で4、5回、脚を取られていました。馬場が硬くて、芝丈の長い、今の京都の馬場も合わないようです。

【天皇賞・春(GI)】(京都)〜オルフェ惨敗、14番人気ビートブラックが制し大波乱 - ラジオNIKKEI
坂の下りは13F目の10.8、ここはウインバリアシオンが10.9、トーセンジョーダンも10.8。確かに新潟直千級の加速をしてるオルフェーヴルだが、他の馬も同様に動いては伸びるわけがない。ましてや外を回ってのもの。プラス、次の1Fも一頭離れた大外を通って11.3。分かりやすく例えると、だいたいスプリンターズSをぶっこ抜いた時のデュランダルみたいな競馬。それまで糞ペースとはいえ長距離を走って、なおあと1Fあってしかもダントツの一番人気でそれに応えなきゃいけない三冠馬様という立場。バタバタでも必死に食らいついて、脚取られてでも負けないという闘志、オルフェーヴルはよく頑張った。
んまあG1でありがちな「池添ヘタクソ」で済めば問題ない話ではあるんだけれど、なんというか後味が悪いのは、やっぱり騎手を含めた陣営はオルフェーヴルを全然信頼していないし、天皇賞がどんなレースになるか楽しみにしていたのに三冠馬がそれに全然参加する気がなかった、ということだろうか。菊花賞だって有馬記念だって阪神大賞典だって、外を回して常に前を射程圏に入れながら競馬をしていたのに、逸走をやらかしたこのレースでは前を行く馬を野放しにして「自分の競馬をすれば勝てる」とばかりに折り合いに専念し続け、結果的に逸走しないというオルフェーヴルとの勝負に陣営は勝つことはできたが、天皇賞というレースでは大惨敗を喫してしまっている。競馬はオルフェーヴル一頭だけの物語ではないし、オルフェーヴルだけの物語を見たかったわけではない。
ところで、オルフェーヴルの追い切りが調教再審査のコース追い以降も坂路に入れて、しかも騎手乗せて追い切ってるのはどうしてなのかご存知な方いらっしゃいませんかね? 阪神大賞典でも引っかかってハナに立っちゃった感じだったし、それなのに追いオリーブのごとく熱い坂路調教ファサーな仕上げはどういうことなのと思っているんだけど。
さて、オルフェーヴルの敗因に関しての話はこんなところで、その他天皇賞に関しての雑感をいくつか。
まず、ユニバーサルバンク&田辺裕信騎手。馬群を引っ張って4番手だった田辺氏が3割くらいは戦犯な気もする。前とは異質な競馬をしていた後方集団の基準となった馬で、超スローでもこの馬が前を追いかけていかなかったあたり、空気を演出したくらいの仕事はしていた。ユニバーサルバンクを指標に競馬を見てみると、ビートブラックを除いた上位がトーセンジョーダンウインバリアシオンジャガーメイルギュスターヴクライとまともに勝負圏内の馬が占めているし、その順番で5着にユニバーサルバンクで掲示板を作ってみると「オルフェーヴルが競馬にならなかった結果」っぽくも見える。「前は飛ばしているし、自分がこのペースで前を獲らえきれる」と踏んでいたであろう田辺氏は、失速したゴールデンハインドをキッチリかわせているので騎乗のセンスとしてはギリギリ及第点と言えなくもないのではないだろうか。また、ビートブラックに追いかけられなければ勝てるつもりだった荻野琢真騎手の敢闘精神も讃えたい。終始オルフェーヴルに付き合いきりだったヒルノダムールも、相手はコイツと見定めてたわけで、ファイティングスピリッツは悪くないと思うが、付き合った相手が悪かった。結果その馬と同着なんだから、仲良くロンシャンにでも行けば良いのではなかろうか。オルフェーヴルより後ろの位置取りでしかも後の入線のローズキングダム後藤浩輝騎手、コスモロビン柴田大知騎手はちょっと何がしたいのかよくわかりませんでしたね。もうちょっと頭を使って競馬に臨んではいかがでしょうか。クレスコグランドは、3〜4角でオルフェーヴルが加速する時にぶつけられて、その後失速したんで走る気を途中でなくしてしまったんだろうか。春のG1では立て直し含め狙えないかもしれないが、また秋には期待できる。せめて行儀よく走ろう、三冠馬
何はともあれ、勝ったビートブラック石橋脩騎手の手腕はお見事の一言だし、ビッシリ仕上げた中村均調教師も素晴らしいと思うし、とにかく勝った馬・陣営には本当におめでとうございます。今度は儲けさせてください。いやいや、散々「ビートブラックドバイゴールドカップ行きましょう」と言っていたものの、出なくて良かったなーと心から思った。秋はメルボルン凱旋門賞らしいので、また熱いレースを期待したいですね。

*1:これはMahmoudさんも指摘されている