「悲願」と「奇跡」〜第74回皐月賞戦評

寒の戻りとなり曇天に覆われた中山競馬場で行われた第74回皐月賞は、好位から抜け出したフジキセキ産駒の2番人気イスラボニータが快勝。2着には1+1/4馬身差遅れて1番人気トゥザワールド、その1/2馬身差の3着には8番人気のウインフルブルーム

前半1000mは60.2秒と例年に比べるとやや遅いペースでウインフルブルームが引っ張る流れ。それを見ながら番手につけていたトゥザワールドアジアエクスプレスが3〜4コーナーから進出を開始し、更にそれを見るように競馬していたイスラボニータが直線では力強くその2頭をかわしきり、4連勝でG1馬に上り詰めた。

イスラボニータの父フジキセキは、朝日杯・弥生賞と無敗で勝ち進んだものの皐月賞前に怪我で引退、幻の三冠馬とまで呼ばれた馬。イスラボニータの世代は体調不良で種牡馬を引退しているフジキセキにとってのラストクロップイヤーであり、今日の皐月賞が悲願のクラシック初制覇となった。目立った後継種牡馬もおらず、イスラボニータはその血を継ぐ価値ある種牡馬となるであろう。

そして、皐月賞馬となったイスラボニータ新潟2歳ステークスで唯一土をつけている桜花賞馬、ハープスターの存在感をまた今週も知覚することになった。まったくもって末恐ろしい馬である。加えて、東スポ杯2歳ステークスでギリギリの勝負を繰り広げたプレイアンドリアルの名前も忘れないでおきたいところではあるが、ここに来て青葉賞には間に合わずプリンシパルSからダービーを目指すとの報も出てきているため、出走にこぎつけても本来の能力を出しきれるのか疑問符がつくところである。

2着のトゥザグローローも、勝つためには申し分ない競馬をしていたように見える。1番人気で今日を迎えている分、栄冠にあと一歩届かなかったのは本当に悔しいところであろうが、勝ち馬に簡単にねじ伏せられることなく何度もファイトバックして食らいついていく闘争本能を見せつけ、今後も歩むであろう王道路線でのギリギリの勝負でもこの経験が生きてくるはず。自在性が鍵を握る皐月賞が一番のチャンスだったかもしれないが、これからまた何度もチャンスは巡ってくるであろう。

3着のウインフルブルームは、皐月賞での人気薄の逃げ馬のお手本のような競馬。1000m通過60.2秒というスローペースで後続を手球に取り、イスラ・トゥザには屈したものの先に捕まえに来たアジアエクスプレスを抑えこみ、最後のワンアンドオンリーの強襲をギリギリ凌ぎ切った柴田大知騎手の競馬は「あっぱれ」の一言。この騎乗で勝てた皐月賞もあったと思うが、今年は相手が悪かった。大外18番枠からスタートしてハナを奪うその姿に、二冠馬サニーブライアンを重ねたファンも多かったことだろう。

4着ワンアンドオンリーは、今日は戦法的に勝ち目が薄かった。あの位置からの競馬で全馬差しきれる能力を持っているのであれば、それこそ世代ナンバーワンどころか歴史的名馬に名を連ねる潜在能力を証明することになってしまう。ダービーに向けての上がり目ならば文句なしの一番なのだから、素直に次に期待したい。

6着に敗れた2歳チャンピオンのアジアエクスプレスは、コーナーまでは勝ち切るのかという勢いがあったのにも関わらず最後の踏ん張りが効かなかったあたり、やはり距離だろうか。ダートに戻すとのコメントもあるが、個人的には2000mのジャパンダートダービーよりはNHKマイルカップ安田記念を使ってみてほしいところ。芝にもキッチリ対応できているところや、古馬と見紛う程に完成している馬体からしても、こっちのほうが良いのではないかと思う。

3番人気に支持されつつも11着に敗れたトーセンスターダムは、まったく良い所なしに終わってしまった。前走きさらぎ賞で負かした相手とその内容からもこの競馬が本来の力でないことは明らかなので、コースもペースも変わるダービーで再度奮起を期待したい。

皐月賞を終えた段階でのダービーの展望としては、イスラボニータトゥザワールドワンアンドオンリーの三強といった勢力図であろうか。ウインフルブルームトーセンスターダムは今日の結果からは少し押しづらいし、ハープスターをモノサシにしての比較で遜色のないレッドリヴェールも、ダービーを使う理由がレース間隔に依るということらしく、本命視はしづらい。

ダービーまであと1ヶ月と少し。やはり、クラシックは特別だ。ダービーが「悲願」ではない陣営など、どこにもいない。6月1日に見られる最高の競馬を、今から楽しみにするばかりである。