「JBC2歳優駿を門別競馬場で実施」は大丈夫なのかって話

〇新たにJBC2歳カテゴリーを創設
 JBC2歳優駿門別競馬場で実施

 JBC創設以来の宿願であった「JBC2歳カテゴリー」を、第20回記念開催を機に創設いたします。この競走は、生産との密接な関連というJBCの意義を鑑み、当面、我が国のサラブレッドの98%を生産する馬産地・北海道の門別競馬場で実施することとし、従来の北海道2歳優駿を発展させて実現するものです。
http://www.keiba.go.jp/topics/2019/03/18100000.html

ええっ……

北海道2歳優駿を「JBC2歳優駿」と名前を変えてJBC当日に門別競馬場で実施、JBC開催場(大井)と連携してよりJBCを盛り上げようって話なんだけれど、アイデアとしては面白い。その手があったかー、とは思えど実際にやるのは各方面つらそう。

JBC2歳優駿の出走馬にふさわしい馬はどうやって集めるのか

まず、なんと言っても「JBC2歳優駿の出走馬にふさわしい馬はどうやって集めるのか」が重要で、既存の北海道2歳優駿がベースだと「とてもじゃないが"JBCというお祭り"に見合う馬は集まらない」というのが現状。理由としては「JRA勢は読めない」「南関勢は門別まで来ない」「他地区の馬は能力的に足りない」という中で、北海道2歳優駿に向けてしっかりとレース体系組んである道営勢だけは毎年安定して「まとも」。そんなわけで交流競走の中でもJRA勢の勝率が低いのが北海道2歳優駿エーデルワイス賞の北海道の2競走なんだけれど、そのまま「JBC2歳優駿」として施行しても、道営ファン以外には「よくわからん道営勢とJRAの1勝馬のよくわからん対決」にしかならず、魅力的なレースになるとはとても思えない。

JRA勢は読めない

まず、11月頭に間に合う現実的なJRAのダート1勝以上の条件は2レースしかない。秋の阪神最終週のヤマボウシ賞(1400m)と、秋の東京前半2週目プラタナス賞(1600m)の2レースで、2018年基準であればプラタナス賞(10/13)から北海道2歳優駿(11/1)までは中2週未満と間隔は短い。ヤマボウシ賞は1400mで、北海道2歳優駿の1800mとはカテゴリが少しズレるし、中央勢には実質的なJBC2歳優駿のステップレースは中2週のプラタナス賞だけ、ということになる。しかも、東京でレースした直後の2歳馬を北海道まで運んでからまたレース、というキツい臨戦過程となり、プラタナス賞から駒を進めたエピカリスは全日本二歳優駿を回避することとなった。
では1勝馬の選出は……というと、同じような条件の馬がいすぎて登録しても選出されるかわからない。北海道2歳優駿の選出は2週間強前だが、トレセンに置いておいても同時期の中央ダートの1勝以上クラスのレースは、なでしこ賞(10/21京都ダート1400m)とオキザリス賞(11/10東京ダート1600m)の2鞍と選択肢は狭い上に条件に微妙なズレがある。選出されるかわからない北海道2歳優駿のためにいたずらにトレセンに置いておくわけにもいかないという陣営にとっては魅力的なレースではないだろうし、門別ダート1800の2歳重賞というのはJRA勢にとって遠いのである。
そもそもトレセンから遠い、ステップとなりそうなプラタナス賞・ヤマボウシ賞の勝ち馬は日程的・距離条件的に不利があり、1勝馬も選定は直前で不確定要素が高い、などの悪条件が重なり、JRA勢1番人気がミヤケとかいう2018年の北海道2歳優駿が出来上がってしまい、抜本的な策を練らないととても「魅力的なレース」とはならない。JRAが番組を変えてなんとかしてくれる……わけがないんですよ、ダートコースはJRAにとってサブトラックで、JBC2歳優駿のために番組をいじる理由はほぼ無い。JRAがなんとかすべき、というのであれば完全にNAR側の甘えである。

南関勢は門別まで来ない

11月の頭といえば、南関競馬ではちょうど10/17鎌倉記念(川崎1500m)→11/7平和賞(船橋1600m)→11/14ハイセイコー記念(大井1600m)と2歳重賞が始まる時期で、南関勢の有力どころは基本的にここを走れば良い。わざわざ門別まで輸送して、JRA勢も出るアウェーのJBC2歳優駿を使う理由なんてなさそう。賞金は北海道2歳優駿のほうが南関重賞より高いんだけれど、それでも使わない。
また、大井デビュー馬が大井の重賞競走などで優勝すると支払われる「大井生え抜きボーナス」の設定など、南関4場内・北海道・JRAを含めての有望な馬の獲得競争がある中で「JBCを使います」とはなかなか難しい。
「大井生え抜きボーナス」の支給について(’14 桃花賞) | News | 東京シティ競馬 : TOKYO CITY KEIBA

他地区の馬は能力的に足りない

これに関しては言わずもがな、南関・北海道以外の地区の馬は能力的にかなり落ちる。中央中心のファンを含めた魅力的なレースとするためには、他地区の馬でゲートを埋めれば良いというものではない。


そんなわけで、北海道2歳優駿がベースのままでは「JBC競走の1つとして魅力的なレース」にはなると思えず、かといってJRAから強い馬の出走を促し、南関勢が出走したくなるような魅力的な条件をNAR主導で作れるとはとても思えない。本当に、単に北海道2歳優駿の看板を変えただけのレースを「JBC」として見せて良いの?という疑問への解決は、果たしてなされるのかどうか。

開催当日のJBC主場と門別競馬場のリレーはどうするのか

まずは2017年と2015年の大井で開催されたJBCのタイムスケジュールを御覧いただきたい。

2017年
 7R 15:45 JBCレディスクラシック
 8R 16:25 JBCスプリント
 9R 17:10 JBCクラシック
12R 19:10 マルチカムパドックビジョン賞(大井最終)

2015年
 8R 15:10 JBCレディスクラシック
 9R 15:55 JBCスプリント
10R 16:40 JBCクラシック
12R 18:00 斎藤工剛力彩芽賞(大井最終)

さて、どのタイミングで門別競馬場でJBC2歳クラシックの発走時刻を挟むか。JBC当日の開催場は当然多くのお客さんで賑わっているわけで、その中でJBC競走以外のレースの売上も大きくしたい。「JBC競走」と銘打っているわけだし、レディスクラシックの前か、クラシックの後にJBC2歳優駿門別競馬場で発走させたいところだけれど、当然大井競馬場では前後のレースをやっているわけで、その場内の空気に完全に水を差すことになる。開催場としても「これから門別でJBC2歳優駿やります!」と来場者の興味を他場になど向けたくないだろう。
JBC主要競走の前後に2歳優駿を組みづらいのであれば、開催場の最終レースが終わってから……というのも、大井の実績では最終が終わってから発走としても2時間近く~3時間弱もJBCクラシックから発走時刻の隔たりができてしまう。これでは大井競馬場ではお客さんは帰しづらいし、門別競馬場の売上のために最終レースが終わった後も場内に人を留めておくのも色々と大変だろう。でも、せっかく開催場に集めたお客さんには門別の馬券も買ってもらいたいし、肝心のレースを見てもらう必要がある。JBCクラシックを大井最終レースにして次に2歳優駿を発走させるのは、最終レースというドル箱レースを開催場に手放させることになりこれも難しい。
開催場にはメリットが薄く、JBCに乗るだけの北海道競馬にばかりメリットがある施策が固定化するとなると、ますます南関4場の体力があるところでしかJBCができなくなるのではないか。

NARはJBC2歳優駿で何をしたいのか?

NAR(地方競馬全国協会)がJBC2歳優駿の門別開催で何をしたいのかがサッパリわからない。時期的にJRA勢も南関勢も出走しづらく、開催場はせっかくのJBCデーなのに門別に売上を吸われたり開催経費がかさんだり。JBC当日に門別でやるということは中央の有力騎手はメインの開催場に集まるわけで、地元道営勢としては更に有利にもなる。道営競馬JBC使って支援するためにしか見えないし、それも交流重賞写真判定で取り違えを起こしたところ、というのは恣意的なものを感じざるをえない。「生産との密接な関連というJBCの意義」というNARの謳い文句も、2018年にはJRAで開催してもらい、レースもJRA勢が上位をほぼ独占、地方での開催も大井ばかりという現状を見ると虚しいものだ。
JBCが創設されてから20年だというが、その間に北海道競馬は旭川競馬場を閉場、札幌競馬場での開催も行わないようになり、スタンドが小さく札幌からも遠い門別競馬場ではJBCを開催することもできない。JBC競走を行うとの触れ込みの門別の2歳戦だってJRA認定競走と交流競走ばかりだ。もちろん赤字などの問題もあるのはわかるが、最大の馬産地・北海道の競馬主催者としての矜持は北海道からは感じられないし、このタイミングで他場のリソースを使ってまで北海道競馬に肩入れするNARの姿勢にも疑問ばかりが残る。大学生が考えたジャストアイデアをそのまま採用したんじゃないか、それくらいの「各所利害調整ちゃんとした?」感。
南関4場はNARなど必要ないくらいに自立したシステムを有しているわけで、NARなんぞなくても困ることはあまりない。この「吸い上げ」がきっかけで南関4場まるごとNARから離脱、みたいな残念なことにならないことを祈る。*1

*1:競馬法23条で「都道府県又は指定市町村は、次に掲げる金額を地方競馬全国協会に交付しなければならない。」と書かれているため、NAR離脱はかなり難しいっぽいが