今年の有馬記念は、全馬の無事完走を願って。

2009年の菊花賞馬、スリーロールスが引退したそうだ。
菊花賞馬スリーロールスが引退 種牡馬入り - 競馬 - SANSPO.COM
彼の最後のレースは、2009年の有馬記念菊花賞を勝った、その次のレースだった。リーチザクラウンが引っ張る流れを、スリーロールスは中団やや前目を追走して2コーナーをカーブし、向こう流しに入る。58秒台のペースは速いか、遅いか、各馬の位置取りと折り合いはどうか、中山競馬場は落ち着いたどよめきに包まれていた。
場内のターフビジョンは前から順に16頭の勇姿を映し出し、馬群が一番固まったところを実況アナウンサーが忙しく紹介していく。そろそろ最後方にたどり着くかというところで、手綱を引いて、それでも急に失速すると後方が危険なので、ゆっくりとアクションを大きくしながら、スリーロールスの鞍上・浜中俊は馬群から離脱した。
中山競馬場は大きなどよめきに包まれる。
競走中止
その瞬間、スリーロールス絡みの馬券をほとんど買っていない俺の脳裏に「チャンスが広がった」という考えがよぎった。
ほんの一瞬、だけれどそれは忌むべき感情だ。すぐに、その下衆な打算を誤魔化し振り払うかのようにスリーロールスの無事を祈った。
「大丈夫だ、心房細動とかでも競走中止するし」
「これで馬券とっても後味悪いし」
「失速が急じゃないから、たぶん……」
どれも、今思えば自分を正当化するような汚い感情だ。
だから、それを忘れるためにWINS浅草にいるオッサンのごとく、レースにムリヤリ集中するために俺は叫んだ。


「蛯名!蛯名!マツリダ!マツリダ!ゴッホゴッホ!7!7!ななっ!ななああああああああああああああっ!」


幸いにもスリーロールスは一命を取り留めた。
だが競走能力喪失の診断が下され、そして今日、競走馬登録を抹消し、種牡馬になるというニュースが流れた。

毎年有馬記念の発走直前は「スタートだ、スタートが肝心だ……」とか言いながら固唾を飲んで見守っているんだけれど、今年くらいは全馬の無事完走を願ってみようかな。