日本競馬の「なぜ凱旋門賞なのか?」と、ダービースタリオン

日本人はなぜ凱旋門賞を勝とうと血道をあげるのか?

クロノジェネシスとディープボンドが日本から遠征し、日本産のスノーフォールが人気となった2021年の凱旋門賞の日。英国の競馬番組(iTV Racing)でもパリロンシャン競馬場からレース当日の模様を中継する中、番組出演者の間で「日本人の凱旋門賞への執着」をテーマに議論があった。

疑問を投げかけたのはFrancesca Cumani

「日本人の凱旋門賞に対する執着は何なのだろう。(日本は)巨大な競馬国であり、賞金額も巨大だ。なぜ凱旋門賞なのか?(Why the Arc?)」

それに対して答えたのが、英国の競馬解説者Kevin Blake氏。

「日本の(凱旋門賞への)探究は1969年のスピードシンボリから始まった。当時はとても大変な旅で、日本競馬は発展途上だった」

Blake氏は更に、その時に人気騎手の野平祐二さんが騎手として凱旋門賞に遠征したことでもフォーカス当たったのではないか、と続けた。日本競馬界の凱旋門賞への渇望はスピードシンボリから始まり、エルコンドルパサーナカヤマフェスタで扉を叩き、オルフェーヴルが開きかけた……手に届きそうな悲願をなんとか成就させようとしているのだ、というのは海外メディアでも有名なようで、そういう話を私もそこそこ目にすることがある。
ただ、世界には凱旋門賞と肩を並べるようなビッグレースが多くある中で、Cumani氏の"Why the Arc?"という問いへの答えとしては、私も弱い気がする――そしてBlake氏が「去年聞いた話なんだけど」と続けた「答え」に私はとても興奮することになる。

思いもよらなかった意外な理由

英国の競馬解説者Kevin Blake氏は、日本人が凱旋門賞に執着する理由について、こう続けた。

「日本ではダービースタリオンというテレビゲームが、90年代にとてもとても人気になっていた。そして、そのゲームの中で最も勝つのが難しいレースが凱旋門賞だったというのだ。何人かの日本人(厩舎関係者?)の話では、それがこの世代(恐らく噂話の話者の)にとって強い馬を走らせる舞台が凱旋門賞であるという理由であると」

ダービースタリオン! 確かにダビスタ凱旋門賞を勝とうと血道をあげていた時代が私にもある。*1 皐月賞を除く2000メートル以上のG1を2勝した後に、宝塚記念を勝ってその年の9月1週に厩舎に該当馬がいると凱旋門賞遠征に行きますかと尋ねられて、はいと答えるとそのままフランスに連れていかれて調整も自力でできなくなる、あの、ダービースタリオン凱旋門賞。当時のダビスタ(3とか96とか)では海外レースが凱旋門賞しか存在せず、それが唯一無二の世界最強馬決定戦というイメージを私も持っていた。しかし実際にはタケシバオーシンボリルドルフアメリカに行っていたりと、それまでも「凱旋門賞しか選択肢が存在しない」というわけでもなく、98年までは海外遠征といえばどちらかというと西欧ではなく北米のほうが多い。

キャロットクラブの会報や、POG本などで調教師や厩舎関係者のインタビュー記事を読んでいると、競馬にのめり込んだきっかけはダビスタだと答える方が驚くほど多い。ダビスタ96発売当時に10代だった人が、2021年には35~45歳くらいとなる。海外に出張する厩務員や助手・若手の調教師が、Kevin Blake氏からの取材時に"Why the Arc?"と問われた時に「実はダビスタってゲームが日本にあって~」と語っていてもおかしくはない。

日本の多くの競馬関係者が凱旋門賞を勝ちたいと思っている理由。その中にダービースタリオンのゲームシステムの影響があるんじゃないかというのは盲点的で、それがよもや英国の競馬解説者から聞かされるとはね。

*1:最終的には最強馬作りに行き着くんだけれど