有馬記念の朝は、誰にも平等に訪れる。

有馬記念には、毎年前日の夜から中山競馬場に徹夜で列ぶことにしている。今年も例外なく、土曜日の23時過ぎには西船橋駅にいた。
「なんか肉が食べたいから」という友人Tの要望に応えて、今年は珍しく焼肉を食べてから中山競馬場まで歩いた。支払いにはジャパンカップの払戻金を充当。競馬においてのみ尊敬する我が父は言っていた。
「競馬で儲けたなんて他人に話すものではない、すぐにおごれだのなんだの言われるんだから。いつも『負けた』って言っておけ、そうすれば『他人の不幸は蜜の味』よろしく相手も満足するんだから。ただし、競馬仲間には祝儀としていくらか出してやれ、それは競馬やってる人間の義務みたいなものだ」
そんな内容のことを聞かされたのは、俺が中学生の頃。万馬券を的中させたら自慢したい年頃の俺に、父親からの暖かい助言だった。
「今年はそんな寒くないな」
「3時過ぎたら絶対に寒くなるから、油断するな」
毎年お決まりのやりとり。焼肉屋を出て中山競馬場まで歩いていると、今年はやけに星がきれいに見えた。
途中にあるローソンに寄って新聞を購入。朝が来たら、開門ダッシュして、地下で蕎麦食べて、1Rからまったりと競馬を楽しむ。そんで、昼頃に疲れた、眠いとか言いながらも、有馬記念が近づくと第二の電池が発動して、蛯名だ池添だの大騒ぎ。
今年は、過去15年の有馬記念の映像を見ながら蕎麦食べてたら貧血で倒れそうになったけど、半ば夢遊病者のように蕎麦を食器下げ口に持って行き席へ戻り、しばらく座って深呼吸とかして持ち直してからは、ちゃんと毎年通り。
「ファストフードプラザで男が倒れて救護班出動」「蕎麦ぶちまけて辺り一面惨状」などとtwitterとか2chで実況された挙句に病院のベッドの上からラジオ中継を聴くなんてのは御免被る。
帰りもだいたい西船橋まで歩く「オケラ街道」コース。西船橋までなら、絶対バスよりも徒歩のほうが早い。
「居酒屋の有馬記念セットってなんだろうな」
「さあ。払戻金に合わせて、ってことじゃない?」
などというキレのない会話と、来年ブエナビスタドバイワールドカップに使いたいらしいよ、とかそういう話をしながら、平等には訪れない有馬記念の夕暮れを毎年とぼとぼと歩いていく。