ラフプレーと中央競馬

リンカーン「最後寄せられた」/有馬記念 - nikkansports.com

3着に入ったリンカーン横山典騎手は直線の不利を嘆いた。「最後寄せられたのが痛かった。それまではうまく運べたのに。後味が悪い」とはき捨てるように言った。

最後の直線走路で、

バルク リンカーン
 ○    ○   ハーツクライ
            ○

という体勢から、五十嵐冬樹の右鞭でバルクがリンカーン側にヨレ、ハーツクライとの間にリンカーンが挟まる形になった。
バルクに乗っているのは北海道の五十嵐冬樹ハーツクライに乗っているのはフランスのC・ルメール。また中央騎手の、関東騎手の泣き言か、不利を受ける馬込みの中にいるんだから、仕方ないだろうという意見もわかるし、そういうプレーができないからいつまでも外人や地方騎手にGI持っていかれるんだよ、という意見ももっともだ。
だけれど、馬込みでもきちんと馬をまっすぐ走らせフェアプレーに徹する中央の、美浦所属の騎手を叩くだけの物言いばかりが、最近目立ちすぎる。「だから関東の騎手は勝てない」なんて、結果だけ見て叩くのは簡単だけれど、なぜ「公務員騎乗」のヌルいアマちゃん騎手ばっかりできあがってしまうのかという背景を考えたことがあるだろうか。北村だって勝春だって、GIで馬込みの中にいれず、毎回大外ブン回しているわけじゃない。だけれど、なぜ勝つために全力を尽くさないかというと、いや、彼らなりに全力は尽くしているんだろうけれど、どうして更なる高みを目指さないのか。それは、勝つことが、レースで一つでも上の着順を目指すことだけが騎手の役目じゃないことを、競馬学校の騎手過程から叩き込まれているからなんじゃないかと思うわけだ。
騎手過程の授業の映像なんかを見ていて、鞭を入れる時も体勢を崩さず馬がヨレないようにする技術が重要だなんて話をしていたのを覚えている気がする。最近引退した大先輩大ジョッキーの岡部幸雄河内洋も、フェアプレーで有名な2人だ。この2人の影響が強いから、また競馬学校で教える馬をまっすぐ走らせることの重要性、フェアプレーの重要性だとかをわかっているから、美浦を中心とする中央所属の騎手はヘタレであり続けるんじゃないかと、横山典弘のつぶやきを見て思った。ブロックにカットに、多少のラフプレーくらいあったほうが面白いって意見も否定しない。地方や外人の騎手なんて、賞金水準の高いJRAに稼ぎに来ているわけで、調教乗ってるだけで生活できて、引退しても助手になればいい中央の甘チャンがモチベーション面でもかなうわけがない。
しかし、勝つためのラフプレーの多い地方騎手や外人騎手の台頭によって、頭を悩ませるべきは勝てなくなった中央の騎手たちなんじゃなくて、中央競馬の職員なんじゃないかと。最近の"びじねす"の"とれんど"は「顧客満足度」だそうじゃないですか、よくわからないけれど。地方外人の降着ギリギリラフプレーっていうのが、果たして顧客満足度にどういう影響を与えるか、という点なんだけれど、そんなのわかりっこない。けれど、騎手がラフプレーによって有利に運べば、それで不利を受ける馬ってのは出てきて、降着ギリギリの斜行で進路をカットされた馬の馬券を買ってた人は強い不公平感を覚える。「なぜあのプレーが降着じゃないのか」と言いたくなるのは馬券を買っている以上当然のことだし、降着にしたところで馬が惨敗してしまっていれば馬券はハズレのまま。競馬はなんて理不尽なギャンブルなんだ、馬券購入者にそう思われたらマズイわけで。
博打の胴元には信頼が大事。この胴元の賭場には安心して(ってのもオカシイが)金を投じられると思わせることが、胴元運営で肝心な部分なのに、理不尽な馬券の外れ方をすれば信頼が失われてしまう。もちろん、ラフプレーにより的中に至る馬券もあるわけだけれど、理不尽な的中は胴元への信頼を生まない。中央の公務員騎手たちは、顧客の信頼を勝ち取るために「馬をまっすぐ走らせろ」という教育を受け、それを美徳とする風潮があるのかもしれない。もちろん、ラフプレーは危険だし、一歩間違えれば命すら落としかねないというのは当然あるだろう。