もう一度、芝コースの高速化と競走馬の怪我について

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春の天皇賞を使った馬に続々と故障馬が現れ、同日の牝馬限定芝1800の1000万条件で1.44.7という驚愕のタイムが出るなど、近年でも屈指の好タイムが出る馬場となっていたため、その原因が高速馬場にある、という意見を耳にすることがこの一週間とても多かった。
スピードの出る芝コースを走って脚に負担がかかったために故障した、という因果関係を推測している人が多いみたいだけれど、私は長年「高速馬場が原因で馬が怪我をした」というのはかなり怪しいと思い続けている。スピードが出る馬場で目一杯走らせると脚元に負担がかかりすぎるというのであれば、能力のある馬であれば軽く11秒台をマークし、10秒台が出ることもあるポリトラックコースの調教は非常に危険なのではないか。もちろん、美浦栗東のポリトラックコースを走らせた馬に故障馬が続出、というニュースは聞いたことがない。競馬場の芝コースは路盤が硬い、だから脚元に負担がかかるというのも、データが明示されている例はなく個人の印象論以外で聞いたことがない。実際に騎手や調教師、または競馬場の職員が芝コースの路盤が硬くなっているために競走馬の危険を訴えた例を知っている方がいれば、ぜひとも教えていただきたい。
もちろん直接的に何が原因で上記の3ケースの故障が起きたかは立証されていないし、もしかしたら下り坂のコーナーで急加速するなど脚元に負担のかかりやすいレース展開が起因したのかもしれない。そして、走破タイムと故障率の相関関係がないことは、データで示されているそうだ。*2
では、どうして日本の芝コースのタイムはこうもスピードが出るように改良され、そしてファンが「高速馬場が馬を故障させる」と声を上げながらも維持され続けているのだろうか。
「高速馬場で早いタイムで決着するレースで勝てる馬を育てる日本のレース体系では、タイムの出ないヨーロッパの大レースで通用する馬は作れない。レコードタイムを連発して日本の馬の強さをアピールしたい馬場造園課は狂っている、故障馬も続出しているし早くスピードの出ない馬場に作り変えろ」というような意見を目にすることは、こういうことがある度の恒例行事みたいなものだ。なぜ日本の芝コースはヨーロッパのようなタフなコースに作り変えることができないのか――それは端的に説明すると、気候が違うからだ。日本の夏はとても暑く、丈が長くタフな洋芝を育てるのには向かないのである。中央4場がある本州や九州の夏場は連日30度を超えるのが常で、そんな暑さに晒すと洋芝は軽く全滅してしまう。そのため日本の競馬場の芝コースは、だいたいが洋芝ではなく暑さに強い野芝で敷き詰められ、これが超高速馬場の原因となってしまっている。本州より夏の暑さが和らいでいる北海道の函館競馬場や札幌競馬場では、野芝ではなく洋芝中心の芝コースで、これがタイムが出ないコースであることは有名なことだろう。競馬開催中芝コースはG1レース以外にも何度もレースが行われ、その間をボコボコではない良好な状態に保つために野芝を張り巡らせた結果が、天皇賞当週の京都競馬場、ということになる。
というわけで、スピードが出る馬場は決して悪いものではない、スピードが出ようが出まいが安全な馬場状態を日夜目指して努力している馬場造園課を、私は応援しています。

オマケ

水上学氏のブログなどに何度も登場する「緑の砂」、アレって実在するんですね。ボコボコになった芝コースにオジちゃんオバちゃんが土をまいているのは知っていたんですが、肥料+コースの均質化のために普通の茶色い砂をまいていると思っていたんですよ。馬場開放で芝コース歩いた時も緑の砂なんて見たことなかったし。ところが。
これが芝コースにまかれるウワサの緑の砂だ!
緑の砂……実在するらしいですよ。普通の土ではなく緑の土をまくと見た目がよくなるから、らしい。本件について、たびたび「有りもしない緑の砂の存在を喧伝する水上学氏」という書き方を何度かしてしまっていると思うので、これに関しては大いに反省せねばならんことですねぇ……。

*1:この後、屈腱炎ではなくて腱鞘炎だったと判明

*2:孫引きになるので引用文は載せないが、栗山求氏のblogに「コースの鬼!」からの引用が記載されている。 http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/06/post-bef1.html