坂井瑠星騎手がフィリーズレビューでインから抜けてきて騎乗停止もらった件

阪神11Rでノーワン(1着同着)に騎乗した坂井瑠星騎手(21)=栗・矢作=は、最後の直線で十分な間隔がないのに先行馬を追い抜いたため、(2)アスタールビーの進路が狭くなった。この件で坂井騎手は16~17日(開催2日間)は騎乗停止。

http://race.sanspo.com/keiba/news/20190311/etc19031105000003-n1.html

騎乗停止を受けても馬群から抜けてきて大きいレースで結果を出す、ということには色々なご意見があるかと思う。かくいう筆者も、どちらかというと普段からは「まっすぐ走らせられない騎手はヘタクソ、斜行して邪魔する騎手はバンバン制裁してくれ」というようなことを書いているクチだ。これから書く内容としてはどちらかというと「坂井瑠星スゲェな」というものなので、普段から書いていることと衝突する部分がややあるが「アカンのはアカンし制裁されてしかるべきでやめてほしい」という前提でのものであることをご理解いただきたい。

以下、レース映像のキャプチャはすべてJRA公式サイト掲載のものの引用で、赤線などを用いた強調などは筆者によるものである。

坂井騎手の場合

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白い帽子が1番ノーワン号・坂井瑠星騎手、直線入り口では馬群の後ろやや内目。

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手応え十分だったためか外を確認、混雑していて抜け出すのは難しそうという判断か。

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内を確認、こっちのほうがチャンスがありそうと見て進路を内に。

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赤い帽子5番アウィルアウェイ、白い帽子2番アスタールビーの間に1頭分程のスペースがあり、抜けられそうに見える。アスタールビーの内側ラチ沿いは狭く、アウィルアウェイの外は黄色い帽子2頭イベリスノースヒルズの勝負服)とメイショウケイメイがひしめき合っているため、内寄りへ突っ込む決意を固めたか。

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突っ込む。が、アスタールビー小牧騎手がやや外へ張り出してきたため坂井騎手のスペースは1頭分未満まで狭まったように見える。結果的に物理的なスペースだけで言えば内ラチ沿いのほうが広かったが、このルートは危険防止のため通るべきではないとされている(後述)。つまり、馬群を抜けるには坂井騎手の選択した2頭の間のみ。

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ぶつけられてコースを奪われたアスタールビーと小牧騎手はバランスを崩して後退。坂井騎手は先行馬を追い抜くことに成功するものの「十分な間隔がないのに先行馬を追い抜いたため」2番の進路を狭くしたとして制裁、開催2日間の騎乗停止処分を受けることとなった。
狙うコースを決めたら加速をためらわない、左右の騎手から自分の側でステッキを振るわれても馬の間に迷わず突っ込んでいくなど、なかなか豪胆な騎乗ぶり。狭いところへ入ってもバランスを崩さずしっかりとした両手での手綱捌きや、コース取りを決めたら一切左右に動くことはなく、内のアスタールビーへの進路影響もどちらかというと外のアウィルアウェイ石橋騎手の僅かな動きによるもので(責任は狭いところへ突っ込んだ坂井騎手が取らされたが)、センス・技術とも間違いなく若手では随一だろう。
開催2日間の騎乗停止処分を受けることとなったが、パトロールビデオを繰り返し再生するたびに「上手さ」を認識できる乗り方であった。

以上の画像は、2019年3月10日阪神競馬11Rフィリーズレビュー(G2)のパトロールビデオより。

スミヨン騎手の場合

ところで、この坂井騎手の乗り方について有識者(事情通)から「スミヨンがよくやる」という話があったので、クリストフ・スミヨン騎手のケースも紹介しておきたい。

2012年10月28日 東京4レース、スミヨン騎手は2番ソロル(サンデーRの勝負服)に騎乗。

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最内オレンジの帽子とピンクの帽子の間に1頭分のスペースがありそう、ということでそこへ突っ込んでいったスミヨン騎手。

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内に寄り過ぎて内ラチ沿いのオレンジの帽子の馬をラチで挟んでしまう。

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スミヨン騎手は先行馬を追い抜けたものの、オレンジの帽子の馬は後退。
坂井騎手のフィリーズレビューとほぼ同じケース。スミヨン騎手はこのレースで1位入線するものの、オレンジの帽子の馬への進路妨害を取られて10着に降着となり、騎乗停止の処分を受けている。*1

以上の画像は、2012年10月28日東京競馬4Rメイクデビュー東京のパトロールビデオより。

菱田騎手の場合

フィリーズレビュー・内から馬群を抜けてくる人気薄の馬・若手騎手という共通点があったので、もう一例、これは2着ペルフィカ号の菱田裕二騎手が内から先行馬を追い抜いたが、制裁がなかったケース。
2015年3月15日 阪神11Rフィリーズレビュー、当時22歳の菱田裕二騎手の直線コースでの騎乗について。

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オレンジの帽子・ノースヒルズの勝負服が菱田裕二騎手騎乗のペルフィカ。直線入り口で最内、外への選択肢はほぼ絶望的と言える位置取り。

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そのまま最内の内ラチ沿いから進出。

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特に周囲の馬への進路影響もなく抜け出して先頭争いも2着まで……というレース。
以上の画像は、2015年3月15日阪神競馬11Rフィリーズレビューのパトロールビデオより。

一見、このコース取りをすれば馬の間を割って抜けてくるというリスクだらけの戦法を取らなくてもクリーンに抜けて来られるのでは?とも思えるが、実は「通るべきではない」とされているコース。ここだけ雑な紹介で申し訳ないが「浜中ダッシングブレイズ落馬事件」でも内ラチ沿いを通ろうとした浜中騎手に制裁があるなど、通ろうとして落馬させられても文句が言えない。
実際にこの2015年のフィリーズレビューでは菱田騎手の1列前・2列前の武豊騎手・和田竜二騎手はインにコースはないものとして外へコースを取り、本来通るべきではないところを通って先行馬を追い抜いた菱田騎手は、着順・制裁は別として単純な騎乗技術だけ評価すればとても褒められたものではない。もちろん「それでも上位に持ってくれば良い」という評価もあるだろうが、本記事ではあえて「坂井騎手の引き立て役としての菱田騎手のダメ騎乗」という扱いにさせていただく。

坂井瑠星騎手の話に戻して。

父・坂井英光騎手と矢作芳人調教師の縁などから矢作厩舎所属となり、その伝手でオーストラリアへ長期に渡って騎乗機会にも恵まれた遠征をした坂井騎手の経験が、2019年のフィリーズレビューではわかりやすく活きたレースと言えるだろう。
ジョッキーベイビーズ競馬学校のカリキュラム・試験システムの変更など、新しいJRA騎手育成システムに乗ってやってくる斎藤新騎手などを引っ張る、JRA生え抜き騎手の大きな「波」の旗手としての坂井瑠星、という時代はすぐそこなのかもしれない。

*1:このケースで馬が降着となっているのは2013年の降着制度の変更が入る前なのでご注意